アナログからデジタルへ!
トルクが " 見える " 『デジラチェ』の秘密に迫る
ラチェットレンチにセンサーが、液晶表示がついた!
「元々のラチェットレンチがありますよね、ボルトとかナットを締める工具。『デジラチェ』は、それを進化させた形です。従来のものは、力がかかっているのはわかるのだけれど、どれくらいの力で締まっているのか分からない。じゃあ、どれくらいの力で締め付けたのかが分かるようにしよう、と。」
こうなったらいいのにな、こんなものがあったらもっといいのにな。そんな「日本のモノづくり」の原点をとても強く感じる一言から、今回のインタビューはスタートしました。お話を聞かせて下さったのは『デジラチェ』全般の開発に携わられたという技術開発部の森本さん。
実は私、このインタビューを心待ちにしていたんです。だって従来のラチェットってメカニックのフィーリング・感覚に委ねている部分が多かったと思うのです。それが『デジラチェ』では、トルクが数値として表示され、誰でも同じ力で締め付けができる。
例えるなら、自分で針の位置を見て時刻を読み取るアナログ時計と、何時何分何秒まで的確に可視化されているデジタル時計と言ったら分かりやすいかな? 同じ時刻を知る、という行為でも、私にとってこのふたつは根本的な受け取り方が違うものだと感じています。
だから、そんな“大きな違い”がある「アナログ」の道具から「デジタル」の電子機器へ“進化”がどうして可能だったのか(私にとってとても画期的なこと!)、インタビューを進めていきました。
「まずは、センサーがいります。どれ位の力がかかっているかを調べるために。すると次にそれを表示する部分がいる。そこに、どういった計測をするか? という機能を持たせたら操作ボタンが必要ですよね。それがこう付いて……」
インタビューテーブルに並ぶ2本のラチェット工具。従来式ラチェットのフラッグシップモデル90枚ギアのnepros NBR390(VOL.1のインタビューに登場)と、デジタル表示モニターが備えられた『デジラチェ』を交互に手にとり、進化を施した箇所を指差しながら教えて下さいます。基本的な機能は全部ラチェットと同じなんですね。
森本さんのまるで夏休みの自由研究のテーマが決まった科学少年が、仲間たちに説明するような、にこやかな語り口、表情がとっても印象的でした。
採用されたのはベーシックで、昔からあるパーツたち。
ラチェットの進化形=『デジラチェ』のコンセプト、機能が決まると、次は構成パーツの選定に開発はシフトします。限られたスペースにセンサー、モニター、操作ボタン、バッテリーを搭載するのに、さぞやそれを選ぶのは大変だったのだろうとお伺いしてみたところ、意外な答えが返ってきました。
「ここ(『デジラチェ』を指差しながら)に使っているセンサーは、実はもう随分昔からあり、誰もが知っているものなんです。事例も豊富で、技術的に使いやすい。その特徴は、変化があるとその分の力がわかる点。それを応用するんです。」
なるほど!“力”を検出するということは、変化を測るということなんですねぇ。このセンサーの色んな使われ方・実例の中で分かりやすい代表として教えて頂いたのが造船でした。船を作る際にこのセンサーをつけ、船にかかる色々な力を測っていたのだそうです。確かに、船は波の力で傾いたり、四方八方から圧のかかる乗り物ですよね。続いてモニターは……。
「モニターは電卓やアナログ時計に使用しているものと同タイプ。そう、基本的なベーシックな表示方法を採用しています。」
そうなんです、ここでも“基本的”というキーワードが登場するんですね。そしてボタンも、電卓やデジタル時計に採用されているものに等しいシンプルな仕組み。『デジラチェ』の利便性をより高めてくれるアラームの音やLEDランプに至っても、コンパクトでできるだけ電池を消費しないですむもの(電源はコイン型リチウム電池)から選ばれました。 限られたスペースで使用するシチュエーションも少なくない道具だからこそ、複雑なセンサーを使い、操作性に支障をきたしたり、手に余るサイズになってしまったら元も子もありません。“ベーシックな”パーツの採用は、至極当然の事だったのですね。